遺産分割協議の内容を守らない人がいる場合の対処法
1 遺産分割協議をしても約束が守られない場合とは
遺産分割協議をして、合意ができたとしても約束が守られないことはありえます。
たとえば、相続人にAとBの2人がおり、相続財産として不動産のみがあったとします。
Aが不動産に居住していたため、Aが不動産を取得する代わりに、Bに対して、1000万円の代償金が支払われる内容とすることが合意されました。
その内容の遺産分割協議書が作成されたものの、どちらかがその約束が守らないという事態はありえます。
このような事態になってしまった場合には、どのように対処すればよいでしょうか。
以下では、このように遺産分割協議の内容を守らない人がいる場合の対処法について、説明していきます。
2 不動産を取得する立場から
不動産を取得する立場の方が、約束を守ってもらえなかった場合にはどのように対応すればよいでしょうか。
たとえば、上の例でいうと、遺産分割協議書が作成できたにも関わらず、Bが自らの印鑑登録証明書を提供しなかったとします。
Aとしては、Bの印鑑登録証明書がなければ、法務局での不動産の名義変更手続ができませんので、対外的にも、その不動産がAのものであることを対抗できなくなってしまいます。
そのような場合の一つの方法として、遺産分割調停を提起することも考えられます。
このような調停手続きが進められないという見解もありますが、この調停手続きができれば、Bが分割内容に同意することとなれば、遺産分割調停の成立によって、Aは不動産の名義変更手続ができることになります。
しかし、Bは何らかの理由で、約束を守らないとの態度にでているわけですし、遺産分割調停はあくまで当事者が合意しなければ成立しないことから、Bが遺産分割調停の手続きに協力することや分割内容に同意をすることはあまり考えにくいため、遺産分割調停を成立させることは難しいと思われます。
そのような場合には、訴訟を提起する必要があります。
訴訟の内容としては、遺産分割協議書はBが作成したもので間違いないことを確認する内容の判決を取得したり、遺産分割協議によってその不動産がAのものとなったことを確認する内容の判決を取得したり、Bに所有権の移転登記手続きをするように命じる内容の判決を取得したりすることが考えられます。
このような判決を取得することで、法務局での不動産の名義変更手続ができるようになります。
3 代償金を取得する立場から
代償金を取得する立場の方が、約束を守ってもらえなかった場合にはどのように対応すればよいでしょうか。
たとえば、上の例でいうと、遺産分割協議書が作成でき、Aが不動産の名義変更をしたにも関わらず、Bに対しては代償金を支払わなかったという場合です。
このような場合にも、遺産分割調停を提起するという方法も考えられるでしょう。
しかし、この場合にも、裁判所がこのような調停を取り扱ってくれるかどうかということに加え、Aがすでに代償金を支払わないという態度にでているわけですから、Bが調停を申し立てたからといって、これに応じてくるという可能性は高くはないでしょう。
そのため、このようなケースにおいても、訴訟によって、解決せざるをえないということになります。
ここで、遺産分割協議書がBによって作成され、その実印が押印されており、印鑑登録証明書があるため、Bが合意したことは間違いないからといって、Aが代償金を支払わないBに対して、ただちに預貯金等の財産を差し押さえるという手続きを取れるわけではありません。
預貯金の差押えなどの強制執行手続きをするためには、判決などの債務名義が必要となるからです。
そのため、Bは、Aに対して、代償金を支払う旨の判決を求める訴えを提起する必要があるのです。
Bとしては、訴訟において、この請求を認めてもらう必要があり、原則として、その判決が確定することによって、Aの財産に対する強制執行手続きができるようになるのです。
強制執行手続きとしては、Aの預貯金に対する差押えや、相続で取得した不動産に対する競売申立てなどが考えられます。
4 遺産分割協議の約束が守られなかった場合の対応
このように、遺産分割協議の内容を守らない人がいる場合には、裁判手続きを進める必要が生じてしまいます。
この裁判手続きは、専門家に依頼せずに進めることは難しいため、このような事態になってしまった場合には、専門家に依頼して手続きを進めてもらいましょう。