「財産が少ないから揉めない」は本当?相続紛争の実態と相続対策の必要性
1 遺産の規模にかかわらず相続トラブルは起きている
相続に関して、「うちは財産が少ないから大丈夫」「相続トラブルはお金持ちにしか起きない問題だ」などと考えている方も少なくありませんが、実はそうではありません。
遺産の額が少なくても、争いになり裁判まで発展するケースは多くあります。
そのため、財産の金額にかかわらず、遺産を配偶者、子、兄弟姉妹でどのように分けて相続させるのか、相続税はどのくらい課税されるのか等について、事前に検討して相続対策をしておくことが不可欠です。
2 争いになるケースでは遺産の額が少ないことの方が多い
令和3年度の家庭裁判所の司法統計資料によれば、調停や審判など裁判所で争いになった相続案件の件数・割合は、以下のとおりになっています(算定不能・不詳を除く。小数点第2位未満切り捨て)。
遺産の額
- 1000万円以下
- →2279件(32.86%)
- 1000万円超から5000万円以下
- →3037件(43.79%)
- 5000万円超から1億円以下
- →864件(12.46%)
- 1億円超から5億円以下
- →493件(7.10%)
- 5億円超
- →28件(0.40%)
(参考:令和3年 家庭裁判所 司法統計資料「第52表遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所」)
つまり、決して、遺産総額が少ないから争いにならないというわけではありません。
むしろ、遺産額が少額なケースだと、遺産のほとんどが土地や建物といった不動産であることもあり、不動産の分け方がなかなか決まらず、揉める可能性が高くなります。
3 事前の相続対策
⑴ 相続対策には遺言書の作成が有効
遺言書の作成は、ご自身でもすることができます。
ただ、遺言書の方式について、法律が厳しいルールを設けているため、ご自身で遺言書を作成したものの、遺言書が方式を満たしていなかったため、法的に無効なものになってしまい、かえって紛争のもとになってしまったというケースも少なくありません。
例えば、日付を「令和5年正月」や「令和5年8月吉日」というように記載した遺言書の場合、具体的な日付が特定できないため、それだけで遺言書全体が無効になってしまう可能性があります。
無効になってしまうと、遺産の分け方について相続人全員で話し合う必要が生じるため、そこで紛争が起きてしまうかもしれません。
そのため、せっかく作った遺言書が無効になってしまわないようにするためにも、遺言書の作成にあたっては、専門家に相談されることをおすすめします。
⑵ 遺言書の相談は法律と税金の専門家へ
遺言書の作成では、法的に有効かという視点だけではなく、税金の視点からアドバイスをもらうことも重要です。
特に、相続税は、誰が、どの財産を相続するかによって、かかる税金の額が大きく異なります。
例えば、配偶者の税額軽減を利用した場合は、配偶者の相続した財産が1億6000万円または法定相続分のどちらか大きい額まで、相続税は課税されないこととなっています。
他方、子が財産を取得した場合は、配偶者の税額軽減の特例を使うことはできないため、相続税法の規定に基づき、相続税が課税されることとなります。
また、相続税を大きく減額する制度として、小規模宅地等の特例という制度がありますが、この制度を利用するための条件として、誰が土地を取得するかが重要になってきます。
そのため、小規模宅地等の特例のことを考慮せず、遺言書で土地を取得する人を決めてしまうと、この特例を使うことができず、高い相続税を納めることになってしまうかもしれません。
このように、遺言書を作成する際にもしっかりと相続税のことを考えた方がよいため、遺言書を作成する際は、相続税にも詳しい専門家にご相談されることをおすすめします。
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